密室物！ 宮敏彦のジュニア探偵小説『ひみつの変身』（偕成社）

偕成社〈少女小説シリーズ〉15。1974年刊、初版。カバーの端に少ヨレ、表面に少スレ・傷。経年のシミ・汚れあり。広告頁の巻数番号のところに鉛筆記入の消しあと。後ろの遊び紙に記名（マジックペン）。カバー絵・挿絵：小林璋子 【内容紹介】〈上条探偵＆美奈子〉シリーズ 昨年短大を卒業したあと、父の探偵事務所の助手をしている、二十一歳の上条美奈子は、中学生のいとこのつき添いでやってきた羽田空港で、パン・アメリカン航空の到着するのを待っていた。いとこのお目当は、十九歳のアメリカの映画スター、ヘレン・カーチスで、ひと目その姿を見ようと、ヘレンが出てくるのを、いまかいまかと待っていた。すると、ガラスドアからひとかたまりの人の群れが押し出されてきたかと思うと、カメラのフラッシュがまぶしく光り、「ヘレンだわ、ヘレンだわ」という、悲鳴のような少女ファンの声があがる。そのあとヘレンは、ファンや報道陣にぐるりと取り囲まれたまま、車寄せに待っているキャデラックのほうに向かう。車に乗りこもうとかがんだ瞬間に、だだっと五、六人の人々がヘレンの身体に倒れかかり、どうしたことか、ヘレンは「ノウ、ノウ！」と悲鳴をあげてのけぞり、車の外にばったり倒れる。見れば、血が石畳に飛び散っており、ヘレンは両手を顔にあてている。どうやら、何者かに顔を切られたらしい。 羽田から戻った美奈子は、〈日本のシャーロック・ホームズ〉の異名を持つ父親の上条五郎探偵に「羽田で、たいへんなことがおこったの」と切り出すが、それを聞いた上条探偵はとたんに顔色を変える。というのも、〈クレオパトラ〉なる差出人からの手紙に、この羽田空港の事件が予告されていたからだ。手紙の文面によれば、昨年の九月に起きた、美貌をうたわれた児島夫人の事件に続く、二度目の犯行だという。美奈子から羽田空港の事件の詳細を聞いた上条探偵は、「敵が挑戦したなら、意地でも事件を解決してやろう」と、事件の捜査に乗り出す。手紙に書かれていた児島夫人の事件というのは、美貌の元女優が顔に硝酸をかけられて重傷を負ったというもので、今回の事件とたしかに似かよった点があった。ヘレン・カーチスの病室へと向かった上条探偵は、襲撃犯は男の服装をした若い美少年のような感じだったという証言を得る。それに同行した美奈子は、ヘレンの香水の香りが犯行予告の手紙にしみこんでいたものと似ている気がしたものの、気のせいかもしれないと、父親にはそのことを話さなかった。 上条探偵は翌日、渋谷から電車で二十分ほどの高級住宅地のはずれにある、黒ユリ館を訪ねる。その古風な邸宅の女主人が先の事件の児島夫人で、パーティーから帰宅したあと、化粧室で襲われたのだった。夫人の話では、犯人は化粧室の窓から侵入したというが、どうして三匹の番犬に吠えられずにそれが可能だったのか、不可解な点もあった。お手伝いさんの話では、事件以来、夫人は人が変わったようになり、執事と主治医にしか会おうとせず、外出する際にも、黒いベールのついた帽子をかぶり、絶対に他人に顔を見られないようにしているという。上条探偵は夫人から話を聞くつもりでいたが、アメリカに旅行中で不在だった。上条探偵が探偵事務所に戻ると、〈クレオパトラ〉から日比谷のホテルでの第三の犯行を予告する手紙が届いていた。予告日当日、上条探偵が警察と共にホテルで警戒にあたったにもかかわらず、ロビーで女性客が顔を切られるという事件が起きる。犯人は刑事たちの目をかすめて、どうやってロビーに侵入することができたのか、神出鬼没の犯人〈クレオパトラ〉をめぐる謎はますます深まっていく。 さらに「密室の謎」と題された章では、上条探偵が黒ユリ館で窓から化粧室に侵入する犯行の再現を行なおうとしたところ、直前までなに者かがいた痕跡が室内に残されており、それは作者がいみじくも「そのなに者かは、いったいどこへ消えてしまったのでしょう。ドアに鍵がかかり、窓がしまっていた密室から、どこへ蒸発したのでしょう」と記しているように、不可解きわまりない、密室からの消失であった……。そんななか〈クレオパトラ〉は、最後の犯行予告をしてくる。しかも、今度の犯行現場は事もあろうに、警視庁前だという。 数ある〈上条探偵＆美奈子〉シリーズのなかでも、かなり不可能犯罪に寄せた長編で（トリックが解明されてみると、いささか腰くだけの感もなくはないが）、〈クレオパトラ〉なる神出鬼没の犯人と名探偵とのスリリングな対決という、ジュニア探偵小説ならではの図式も愉しい。終盤に美奈子が見せる大活躍も、このシリーズのファンにはうれしいところ ＊受領後はすみやかに「受け取り連絡」をお願いします...

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